その日、僕は天使の羽根を18

サトシは俺とつないだ手を解いて、俺の胸を拳でトントンと叩いている。

叩きながら、ちがうもん、ちがうの!と繰り返している。

伏せた瞳には涙が浮かんでいるんだろう。

長い睫毛に雫が付いていた。

翔くん僕は子どもじゃないよ

うん、そうだよね。

気に障ったんだね。ごめんね。

サトシは俺の天使だもんね?

コクン、と頷いて、トントンしていた拳を止めた。

そのまま、しんどそうに、俺の胸に頭を押し付けていた。

俺のと言いかけて、口ごもった。

サトシは俺の何?

たまたま出会っただけの人間。

やっぱり帰る?

聞いたけど、サトシは買い物がしたい、と、言い張った。

さっきとは違って、手をつないで歩き出した。

サトシがわかりやすい本を買おうか?

俺は多分、できないから。

道具も揃えないと。

それから、サトシが大丈夫なら、服も買いたいね

書店では初心者向けの男の料理の本を。

キッチン雑貨の店で包丁とまな板、深めのフライパンを。

そこまでで、サトシがかなり疲れているようだった。

それでも帰るとは言い出さない。

人が少なさそうな店で一回休憩する。

洋服屋ではサトシははしゃいだ。

どれが似合うと思う?

一枚一枚、自分に当ててみては、俺に見せに来る。

サトシが気に入ったのならなんでもと答えても

翔くんが僕に似合うって思うものがいい

サトシには真っ白なシャツが似合うと思う。

薄い色の髪によく似合う。

最初に出会った時に白い服を着ていたから

そう思うのかもしれない。

でも、無垢なサトシには他の色は似合わない。

なにものにも穢されない侵されない。

サトシには純白を着せたかった。

白いシャツとジーンズを買って。

サトシと俺のおでかけは終わった。