黒猫物語新緑学校の二人8蠢き

この小説は純粋な創作です。実在の人物団体に関係はありません。

この子踊りをやってる。

横に座る少年の手が目の前をひらめくのを

奈美は見ていた。

YOSAKOIは、

定番の所作の繰り返しに

そのリズムの躍動に

観客を巻き込んでいく踊りだ。

その腕が

しなやかな一つの生き物のようだ。

この子の腕が舞っている。

この子の心も舞っている。

きっと

もし立てるなら

いきなり舞い出してしまうんだ。

だって

この子YOSAKOI

感じてるんだもの。

うわーーーっ

一つのチームが舞い終えるごとに

駅前の会場のほとんどを埋め尽くす

YOSAKOI集団は

歓声を上げる。

足を止めた見物客を

祭りに引き込もうとする

楽しむエネルギーが

炸裂する。

その渦の中で

ぼーっ

まだ手をひらめかせ

終わった音楽を追う少年に

奈美はいちいち声をかける。

鳴子を鳴らして

そして、

そのたびに

少年は、

あっ

思い出しては

一生懸命鳴子を鳴らす。

奈美は思う。

この子は

踊るの大好きなんんだ。

素敵だった

ありがとうもできる。

でも、

叫んだり

盛り上がったりは

知らないような気がする。

どこのお姫様なんだろう。

あ、

坊っちゃん

でもやっぱり姫だ。

さっき握り締めた少年の手を

そっと眺める。

白くて

細くて

昔欲しくてたまらなかった

綺麗な綺麗なお姫様人形の手みたい。

ふっ

ため息が出た。

大事にされるって

きっと

こういう感じだ。

天使が降りてきたみたいじゃないの。

フツーのこと

何にも知らない天使が

私の隣でYOSAKOI見てる。

この子を

大事に

大事に思う人が

いるはず。

こんな剥き出しの世間知らず

一人でやってける

はずがない。

誰かが

そのままのこの子を

大事に守ってたはずだもの。

トムさんのとこ

送ってってあげる。

終わるまで待ってなさい。

次の演舞が始まる前に

言っとこう。

奈美は

声をかけた。

不思議な子。

ほんと不思議。

トムさんのことも

知りたかった。

ぼく、

待ってなきゃ。

待ってろって。

うつむいて

少年は答える。

もう!

それじゃ

だめだよ!!

自分で解決しなきゃ

自分を責めるだけになっちゃうでしょ。

奈美は

軽い苛立ちを感じて

声を強くした。

だって

その人が心配なら

自分で動かなきゃ。

心配なんでしょ?

男の子は

ひどく悲しげな顔をした。

そして、

ぼくが勝手に動くと

迷惑かけちゃうから

だめなんだ。

思い詰めたように

自分に言い聞かせるように

呟いた。

キャッ!

何すんですか?!

後ろから小突かれて

奈美が

文句を言う。

リーダーの藍田が

笑っていた。

奈美!

いろいろ

あるのさ。

終わってから考えればいい。

なっ?

少年の肩を

リーダーが叩く。

そうだ!

君、

何て名前なんだ?

その問い掛けは

宙に浮き、

掻き消された。

みづきー

みづきー

みづきちゃーん

時ならぬ喚き声が

見物客の一角から響き渡る。

少年は

目を見開き

声のした方を見詰めた。

引き寄せられるように

立ち上がる。

トムさん!

唇が

動いた。

そして、

遮二無二動き出した。

見物客の最前列、

老若男女取り混ぜた軍団が

声を限りに

叫び立てていた。

奈美は

見る。

駆けていく

駆けていく

天使が

まっしぐらに駆けていく

真ん中には

小柄な老人。

黄門様?

お祖父ちゃんが

大好きだった時代劇を

奈美は思い出していた。

助さんと格さんもいるじゃん。

助さん、

怪我してるのかな。

格さんに支えてもらってる。

助さん、

トムさんっていうのかな。

モニタールームは

ざわめいた。

あれは

西原じゃないか!!

意識不明じゃなかったのか?!

どうしたんだ?!

伊東が

軍団に負けない大声で

インカムに

喚いた。

わかりません!!

悲痛な声が響く。

為す術もなく

瑞月は

安全地帯を抜けていく。

マサさんか。

鷲羽の影を束ねる方が

とんでもないことを!!

ねぇ

あの子

テレビに出てた子じゃない?

そうだ!

大財閥の子だよね

見物客の間から

祭りにふさわしからぬ

不穏なざわめきが生まれていた。

イメージ画はwithニャンコさんに

描いていただきました。

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